富山県水墨美術館で開催中の「芳年―激動の時代を生きた鬼才浮世絵師」を観てきました。
月岡芳年(つきおかよしとし)は、「最後の浮世絵師」とも称され、江戸から明治へと急激に変貌する時代に活躍した絵師です。
12歳で武者絵の名手・歌川国芳(うたがわくによし)に入門し腕を磨きました。
今回は、芳年のコレクションとして世界屈指の質と量を誇る西井正氣氏のコレクションから、200余点を紹介する展覧会です。
名前しか知らないから、今回じっくり観てみよ~
ネコ画伯的感想
【見どころ1】血みどろ絵
芳年は「血みどろ絵」で有名ですが、その代表作に兄弟子の落合芳幾(おちあいよしいく)と共作した「英名二十八衆句(えいめいにじゅうはっしゅうく)」があります。
歌舞伎や講談を題材とした全28点のシリーズで、芳幾と芳年でそれぞれ14枚ずつ担当しました。
今回はその28点がすべてそろって展示されています。
なぜ「血みどろ絵」かというと、すべて刃傷沙汰の場面を描いているため残酷な血の表現があり、展示の前に注意書きがあるほどなのです。
実際に目にすると、当時人気になったのがわかるぐらい、「血みどろ絵」には独特の魅力がありました。
怖いもの見たさというのでしょうか…
裸で吊り下げられ切りつけられている女性(《英名二十八衆句 稲田九蔵新助》)や、顔の皮をひきちぎられている男性(《英名二十八衆句 直助権兵衛》)など、目を覆いたくなる残酷さなのですが、気づくと食い入るように見てしまっている自分がいました。
そして横に並んだ芳幾の作品と比較すると、明らかに芳年の絵のほうが残酷さ、怖さを感じる表現なのです。
芳年が「血みどろ絵」で有名になったのも納得の上手さでした。
【見どころ2】緊迫感あふれる一瞬
「血みどろ絵」の他にネコ画伯が芳年の魅力を感じたのは、緊迫感あふれる一瞬を描いた絵です。
例えばこの絵↓
平安末期の伝説的盗賊である熊坂長範(くまさかちょうはん)と、源義経の幼少時代である牛若丸を描いた作品です。
狭い画面いっぱいに2人が対峙する姿が描かれ、目の前で今まさに闘いが行われているかのような緊張感が伝わってきます。
熊坂長範のがっしりとした重量感のある様子と、牛若丸のふわっとした軽やかな動きが伝わる構図がすごいですね。
また、こちらの絵↓
小刀を振りかざしているのは鬼神のお松。
夫の仇である夏目四郎三朗をだまし、背負って川を渡らせているときに背後から襲う様子です。
刀に血がついていないのでこれから刺すところかと思いきや、夏目四郎三朗の首から血がしたたっているので、刺した直後のようです。
ゾクッとするようなお松の冷たい表情、鳥が飛び立つ一瞬に「やられる」緊迫感。
本展では、こうした空気が張り詰める一瞬を上手くとらえた作品が多く見られました。
【見どころ3】晩年のよさ
今回の展示で印象的だったのは、作品説明で繰り返し「芳年は血みどろ絵ばかり描いたわけではない」という意味の言葉が記載されていたことです。
「芳年といえば血みどろ絵」とイメージされがちですが、実際には「血みどろ絵」と呼ばれるシリーズは3作品しかなく、1万点にものぼると言われる芳年の制作数からみればわずかな数です。
展示ではそれを証明するように、武者絵、歴史画、美人画、妖怪画など、様々なジャンルの作品が並べられていました。
《新形三十六怪撰》は芳年最晩年の妖怪画のシリーズ。
芳年は神経衰弱を患っており、「新形」は「神経」にかけたものという説もあるそうです。
すっきりとかっこいい絵が多く見られ、古びて破けたような絵の縁取りもおしゃれじゃないですか?
この《地獄太夫悟道の図》も、凛とした表情、着物の柄と色合いがはっきりとしてかっこいい作品です。
ミュージアムグッズ
ポストカードを買いました。
本展覧会のポストカード3枚と、石崎光瑤(いしざきこうよう)、篁牛人(たかむらぎゅうじん)のポストカードです。
ちょうど同じ日に、高岡市美術館の展覧会「ヘテロジニアスな世界 光瑤×牛人」で観た作品のポストカードだったので購入。
ミュージアムカフェ
富山県水墨美術館には、茶室「墨光庵(ぼっこうあん)」があります。
時期によって変わるお菓子と抹茶のセットをいただくことができます。
今回は時間がなく利用できませんでしたが、過去に利用した際の記録はこちらです↓
展覧会まとめ
今回の展覧会では質・量ともに充実の作品が並び、月岡芳年という絵師の画業をよく知ることができます。
名前ぐらいしか知らなかったネコ画伯も、芳年の多彩な作品を観て、その技量・魅力をしっかりと感じ取りました。
気になった方はぜひ一度、足を運んでみてください~!
芳年―激動の時代を生きた鬼才浮世絵師
2023年9月15日(金)~11月19日(日)
富山県水墨美術館